ナッピングとは、任意の石を加工し、徐々に道具の形にしつらえるための比較的単純な技で、過去300 万年にわたる人類の進化の中核となる石器製作技術である。イスラエル南部のネゲブ砂漠を訪れた著者は、石器から数々の人類史的な出来事を読み取る。
「自然との一体感」と「バイオフィリア催眠」は自然や生命との絆を求め、アイデンティティとして進化したその傾向を意識的に保とうとし、人間の生来の傾向を浮き彫りにすること。個人が自然とより深く関わることはその人の幸福度の向上と相関していること。石削りは私たちが「フロー状態」(集中し、深く関わり、活動の過程そのものを楽しみ、我を忘れて没頭している精神状態)になるための最も古くからある手段であり、それは我々の祖先も共に持っていた精神状態である可能性が高いこと。手斧の「対称化」という現象は、美的感覚の発達や交尾·求愛と結びつく可能性があり、骨と肉を切り分けるという本来の用途をはるかに超えて、考えを伝える媒体になる実例の始まりであること。イスラエルで見慣れていた石でできた構造物が必ずしも自然の産物ではなく、何十万年も前に人類が人工的に切り出した痕跡が浸食されてできたものであり、「人新世」は通常、約1万年前の農業革命から始まったとされているが、サハラ砂漠中央部のメセック·セッタフェット地域のような採石の結果として景観が大規模に変化したことを示す証拠の存在は、人新世の開始年代が数十万年前に遡る可能性をはらんでいること──etc.
熱いネゲブ砂漠で著者は言う。「私はとてつもなく昔に誰かが作ったものを手にしながら、避けがたい縁を感じていた。まるで犯行現場に立ち会ったかのような好奇の目で見回すと、恐らく劇的な狩りの末に大型動物がここで殺され食肉に捌かれたのだろうと思えた。しかし、誰もいない谷は静かで平和だった」と。
さりげなく書き付けられた「平和」という言葉から、私たちが読み取るべきこととは? 次の一文には、そのヒントがある。
「人新世に対する私たちの現在の見方が、私たちの活動が地球にどのような影響を与えたかに焦点を当てているとすれば、そのコインの裏側は問いかける──周囲の環境は私たち自身をどのように形作っていこうとしているのか」
人類史に「平和のデザイン·サイエンス」をさぐる。