DSF CULTIVATION AWARD
デザインとサイエンスの繋がりからあらたな創造が生まれる。
その成果を生み出した主人公を褒め称え支援することによって世界を美しい方へ導くことを目的とする。
選考結果
THE DESIGN SCIENCE FOUNDATION
PRIZE for LEADING CHARACTER 2023
DSF CULTIVATION AWARD
新山 龍馬 氏 Dr. Ryuma Niiyama
ロボット研究者
活動概要
⾦属製の硬質なロボットのイメージに疑問を持ち、⽣物のような機械のあり⽅を探究してきた。その活動は、主にソフトロボティクスと呼ばれる柔軟材料を活⽤するロボットシステムに関する学術領域に属する。ロボットが硬い理由は、それが⾁や⽪をもたないからであり、⾁とは動物の場合には動⼒源である筋⾁である。運動のための機能要素である筋⾁が⾝体を形づくっていることに興味を持ち、⼈⼯筋⾁で駆動される筋⾻格ロボットを多数開発してきた。開発してきた跳躍ロボットや⾛⾏ロボットは、⼈間を含む哺乳類の⾝体が素早くしなやかな運動に適したデザインであることを⽰唆している。
ロボットは「⾝体をもった計算機」とも解釈でき、情報世界と実世界をつなげる存在でもある。やわらかいロボットは、変形をプログラムできる特殊な物体である。このことを利⽤して、ソフトロボティクスを応⽤したタンジブル(可触知)なコンピュータインタフェースや、遠隔操作するアバターロボットの研究も⾏なってきた。
近年では、インフレータブルロボットと呼ばれる⾵船構造・膜構造を使った軽量なロボットの研究を進めている。これはいわば⾻や⾁のない「⽪」だけのロボットである。
単著『やわらかいロボット』(⾦⼦書房、2018 年)では、軟体動物から⼈間まで、さまざまな⾝体のありように⾔及しながら、やわらかさを起点としたロボットの新展開について論じた。
審査員から
歩行用のロボットが転んだときに膝から崩れ落ちるのを見て生き物を感じた。研究は正確に歩くという目的のみならず、あらゆる動きがその物体の表情として現れるということを新山龍馬は知っている。この身体的表情というのが本来の人間の疎通であり、DESIGN SCIENCEである。
ソフトロボットというものはロボットの身体に駆動装置を持たない筋肉の動きのような概念を持ち込み、その概念を基盤に作られた柔らかいロボットのことを指す。駆動装置を使わないということは人間の身体や生物と同じで、自然と一体化することで、自然のちからとどう調和するという概念からものを考えている。受動ダイナミクスという周りの環境から力を得て動くということはアフォーダンスそのものであり、この視点による研究は今後の地球環境を維持するためにも重要な役割を果たすに違いない。
環境からの力を使って営むという生物と環境のインタラクションがロボットという存在になるという考えに大きな期待と安心を抱いた。
https://www.meiji.ac.jp/sst/grad/teacher/
THE DESIGN SCIENCE FOUNDATION
PRIZE for LEADING CHARACTER 2023
Jury’s Special Award for creating peaceful platforms
審査員特別賞
みふね たかし 氏 Mr. Takashi Mifune
みふねたかしは「いらすとや」というWEBサイトで無償でイラストを提供している。かわいらしくほのぼのとした多様なイラストの素材が揃っており、個人、法人、商用、非商用を問わず使用でき、病院や飲食店、テレビ番組、官公庁などの公的機関でも幅広く使用されている。
審査員から
「いらすとや」は、出来事を描いている。
出来事は、複雑な力の引き起こす、モノとヒトのレイアウトの変化である。出来事では、レイアウトどうしの衝突、しなやかな変化、表情と呼ばれる小さな肌理の粒立ちが起こっている。そして、始まりと終わりがある。
わたしたちは、それらが同時に進行するところを、いつも、見ている。出来事を見ることが、わたしたちの意識の中心である。
いらすとやは、日常の「ふつう」のジャンルを、出来事の集まりで示している。誰でも知っている「ふつう」の集合に、見逃すことのできないヴァリエーションを加えて、ジャンル全体を示している。
だから、個性を表情で隠したかわいい登場人物たちで描かれた、いらすとやの日常の幅はかなり広い。まだ見たことのない出来事が、すべてのジャンルに発見できる。それが、いらすとやの、しぶとく訓練された観察眼を示している。
ジャンルに並ぶ出来事は、すべてがジャンルの「中心」にある出来事である。しかし、これでも日常の中心なのかと驚くイラストが、必ず入っている。その出来事が、あまりにふつうなので、忘れている出来事の意味が発見できる。
いらすとやは、こういう集合をつくる方法で、「日常のデザイン・サイエンス」を実践している。それによって、日常というレイアウトを、照らし出している。
新しいデザイン・サイエンスの一つの試みが、ここにある。
選考委員
深澤直人、佐々木正人、面出薫、櫛勝彦、松尾誠剛、鳥谷克幸、中村勇吾