DSF CULTIVATION AWARD
デザインとサイエンスの繋がりからあらたな創造が生まれる。
その成果を生み出した主人公を褒め称え支援することによって世界を美しい方へ導くことを目的とする。
選考結果
THE DESIGN SCIENCE FOUNDATION
PRIZE for LEADING CHARACTER 2024
DSF CULTIVATION AWARD / 2名 / 50音順
冨井 大裕 Motohiro Tomii
DSF CULTIVATION AWARD
美術家
活動概要
冨井大裕は、誰もが知っていながら見過ごしている事象をしっかりと捉えている。その誰もが感覚で捉えたものを、そのものが持っている感覚の通りに配置していることは人間の新たな気づきの集約である。その価値をそこで分析し、共有することには、あまり意味はない。それは彼の感受性とそれぞれ各々が感じとっていることが同じことでありながら見えていないという、無視しているということに他ならない。こういった意識と無意識を行き来する人間の中に封入された記憶を再認識して元の場所に返してくる。彼の活動はそういった感じ取ったことに対して素直にそれを受け止めているだけである。
2023 展覧会「今日の彫刻 冨井大裕展」(栃木県立美術館)
2023 展覧会「冨井大裕 みるための時間」(新潟市美術館)
2015-16 文化庁新芸術家海外研修制度研修員としてニューヨークに滞在
2011 展覧会「再考現学/Re-Modernologio phase2:観察術と記譜法」(国際芸術センター青森)
2000 第4回アート公募2000審査員大賞受賞
審査員から
見えているのに見ていないということがある。触れているのに感じていないということがある。 人の意識とセンサーがリンクしていないのは自然なことだが冨井の作品はそのリンクを暴露する。空気の中に明らかに存在する力とか波動を露わにしてわれわれを静かに驚かせる。 行為の痕跡で意識の繊毛がふわっと立ち上がる。気付くという共感の喜びが「???!」と 目を開かせる。この喜びの種類は定義しにくい。だが確かに物や環境や状況が人間の行為を起こしているのだ。「気付き」を喚起することは、己と世界を知るということなのだ。 冨井に見えているものは我々には見えない。
©Motohiro Tomii, Courtesy of Yumiko Chiba Associates
上段左: four rulers / 2010 / 定規 / 撮影: 柳場大
上段中央: woods#3 / 2011 / ハンマー / 撮影: 木暮伸也
上段右 : roll (27paper foldings)#3 / 2009 / 折り紙、ホッチキス / 撮影: 柳場大
中段左: measure / 2009 / メジャー / 撮影: 柳場大
中段中央: four color carpets / 2011 / タイルカーペット / 撮影: 柳場大
中段右: ball pipe ball (2 stories) / 2010 / 硬式野球ボール、単管パイプ、単管クランプ / 撮影: 柳場大
下段左: joint (ball) / 2005 / ストロー / 撮影: 城戸保
下段中央: bricks / 2004 / スポンジ / 撮影: 城戸保
下段右: hills / 2011 / 脚立、合板 / 撮影:木暮伸也
ホンマタカシ Takashi Homma
DSF CULTIVATION AWARD
写真家
活動概要
行政やデベロッパーによる画一的な開発が進む東京郊外の風景と人々を一定の距離感で撮影し、叙情性を排した写真作品で知られている。2023年には、東京都写真美術館で、国内で約10年ぶりの個展「即興 ホンマタカシ」展を開幕。ここでは、建築物の一室をピンホールカメラに仕立て、世界各地の都市を撮影した作品を多数発表。ホンマタカシはこれを「都市によって都市を撮影する」と表現している。
2023 展覧会「即興 ホンマタカシ」(東京都写真美術館)
2011-12 大規模個展「ニュー・ドキュメンタリー」
(金沢21世紀美術館、東京オペラシティ アートギャラリー、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館を巡回)
1999 第24回木村伊兵衛写真賞受賞
審査員から
ホンマタカシは、視覚デザイン・サイエンスに二つの新しい方向を示した。
第一は、紀元前に起源を持つカメラオブスクラ(ピンホール)による写真制作。東京都写真美術館の「即興 ホンマタカシ」(2023)では、世界各地の都市の部屋全体をカメラにして、レンズとシャッターなしで壁の穴から入った「生の光」に、カラーフイルムを感光させた作品を多数展示した(図1)。「アンビエント・ライト(その場所だけにある光)」そのものが、写真のテーマとなった。
第二は、写真の視覚は画像と同時に、額装、ガラス面のテクスチャーなどの視覚でもあるとする、「知覚の二重性」の指摘(図2、2023年に生態心理学研究より発表の論文より)。表面であり、かつ画像の情報も示している写真の意味が、多重な視覚の同時性にあることを指摘した。
写真の視覚を変えることで、視覚デザイン・サイエンスの未来を示すホンマタカシの仕事は高く評価できる。
(左)図1 New York / 2015年 / THE NARCISSISTIC CITYより / ©Takashi Homma
(右) 図2 Getxo. Spain / 2022年 / ©Takashi Homma / スペインの銅像に付いていた写真キャプションを撮影したもの
No.9 / 2015年 / THE NARCISSISTIC CITYより / ©Takashi Homma
ピンホールルームに設置されたフィルムの前に「9」のシールを貼った透明板を置いて撮影。外の景色の電線は天地さかさま
THE DESIGN SCIENCE FOUNDATION
PRIZE for LEADING CHARACTER 2024
DSF CULTIVATION AWARD FOR STUDENTS / 5名
深津 ひかる Hikaru Fukatsu
DSF CULTIVATION AWARD FOR STUDENTS
印刷物の密度
新聞、文庫本、週刊少年誌などの断面が地層のように木枠の中で組み立てられた作品。裁断の方向や積み上げ方の違いによって、印刷物の束の密度と紙面のインクの密度が交じり合い、層状の表情が生まれている。
杉原 寛 Hiroshi Sugihara
DSF CULTIVATION AWARD FOR STUDENTS
Strolling
小さな箱がゆっくりと転がり続けるインスタレーション。箱は重力に逆らって起き上がり、不安定な姿勢のまま角度を変え、倒れることなくゆっくりと着地する。物理法則を無視した動きはCGのようでありながら、重力に抗って動くさまは生物のような意思も感じさせる。
紀平 陸 Riku Kihira
DSF CULTIVATION AWARD FOR STUDENTS
Sand Printing
自然造形のひとつである砂丘は、まばらに雨が降り、風が吹いて、砂漠のようになだらかな地形が形成される。作者は、自然現象の一部に手を加えることで、自然法則を用いながら自然が未だ算出していない形の可能性を探索している。
砂浜の現地資源と3Dプリント装置を活用し、砂の構造体を造形する手法を開発。具体的には、砂浜の砂と海水を用いて、3Dプリント装置および3軸CNC装置で砂の構造体を形成。また、砂に水を供給する経路を設計し、雨を制御。これにより、地面に落ちる雨や風が作り出す自然造形に人工的な操作が加わり、新たな「未自然造形」が彫刻される。それらは、自然環境の中での変容し続け、訪れる人々とのインタラクションによって変容し続ける。
孟 金羽 Jinyu Meng
DSF CULTIVATION AWARD FOR STUDENTS
SLIT-STUDIO
スリット・スキャンという撮影技術を全ての人にツールとして提供することを目指した作品。
この撮影技術はジョン・ホイットニーが デジタル技術がまだない1958 年に考案され、スリットを通して撮影された画像を連続的に結合することで、時間とともに変化する被写体の輪郭や形状を捉えることができる。作者はこれを、iOSが提供したMetal Shader API を利用し、カメラからのデータをリアルタイムで処理を行う仕組みを作ることでスマートフォンでのスリット・スキャン撮影を実現している。
石井 佑宇馬 Yuma Ishii
DSF CULTIVATION AWARD FOR STUDENTS
友禅技法に基づく染色表現の研究と創作
手描き友禅の技法を基に染色によって制作された作品。友禅では、図案や下絵が重要なプロセスとされているが、作者のアプローチは異なる。図案や下絵を一切用いず、布の隅から隅まで即興的に防染糊を置くことにこだわっている。その後、面相筆を使って、感覚に従いながら染料を挿していく。この方法によって、図案に頼らない感覚的で緻密な糊置きと色挿しが実現している。
選考委員
深澤直人、佐々木正人、面出薫、櫛勝彦、松尾誠剛、鳥谷克幸、中村勇吾